どうしよう?

推奨されたのではてなダイアリーからインポートした

第8章 頭の中で生きている人々――失調型パーソナリティ障害

特徴と背景

インスピレーション豊かな直感人

失調型(スキゾタイパル)パーソナリティ障害の特徴は、一言で言えば頭で生きているということである。奇妙でユニークな思考や直感が常に生活や行動に影響を及ぼしている。何も考えていないようだが、頭の中の思考は驚くほど活発で、常に頭の中で対話していたり、自分に向かって語りかけている。それが、独り言や思い出し笑いになって、出てしまうこともある。そうした思考や直感は、非常に独特で、常識を超越しているため、事情を知らない周囲の者は、風変わりに映る。事情を知ると、それなりにきちんとした理由があることがわかる。通常の流儀と食い違ったり、かけ離れることも、このタイプは頓着しない。自分のスタイルに従い、マイペースで生きていこうとする。
そのため、常識的な周囲としばしば摩擦が生じたり、変人あつかいされることも多い。
最近、よく知られるようになったアルペルガー障害で大人になった人と、マイペースな対人関係やコミュニケーションのスタイルにおいて、似ている点も多く、しばしば区別がつきにくい場合もある。一つの違いは、失調型パーソナリティ障害では、超越的な存在や非理論的な思考に親和性を持つのに対して、アスペルガー障害のほうは、客観的で観察的な傾向があり、解剖学的な、実験的な物の見方をするという点である。誤解を恐れずにいえば、観念論的志向と唯物論的志向の違いといっていいかもしれない。
だが、いずれにしろ、失調型パーソナリティ障害の人は常識的な思考に囚われず、直感や創意に富み、学者や研究者として画期的な業績を成し遂げることもある。
彼は内的な世界に常に生きている。精神内界の旅こそが、彼の人生なのである。外面的な生は、彼にとって、それほど重要ではない。文学者や宗教家や僧侶や哲学者として大成することもある。
失調型パーソナリティ障害は、総合失調症に近い、あるいは同じ遺伝子を持ちながら、環境的素因子や発病を抑制する他の素因によって、総合失調症を発症していない状態と考えるのが一般的である。したがって、他のパーソナリティ障害と異なり、遺伝的要因の関与が比較的大きいといえる。一般人口の約三パーセントが該当すると言われている。


失調型パーソナリティ障害

親密な関係では急に気楽にいられなくなること、そうした関係を形成する能力が足りないこと、および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目だった、社会的および対人間系的な欠陥の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 関係念慮(関係妄想は含まない)
  2. 行動に影響し、下位文化的規範に合わない奇異な信念、または魔術的思考(例:迷信深いこと、千里眼、テレパシー、または”第六感”を信じること:小児および青年では、奇異な空想または思い込み)
  3. 普通でない知覚体験、身体的錯覚も含む
  4. 奇異な考え方と話し方(例:あいまい、まわりくどい、抽象的、細部にこだわりすぎ、紋切り型)
  5. 疑い深さ、または妄想様観念
  6. 不適切な、または限定された感情
  7. 奇異な、奇妙な、または特異な行動または外見
  8. 第一度親族以外には、親しい友人または信頼できる人がいない
  9. 過剰な社会不安があり、それは慣れによって軽減せず、また自己卑下的な判断よりも妄想的恐怖を伴う傾向がある

人目を気にしないマイペースな人生

スキゾタイパルの人は、どこか異星人のような、浮世離れした雰囲気を持っている。それは、よくいえば精神性の高さであり、悪く言えば、非現実的な傾向である。スキゾタイパルの人は、内的な思考の中で生きているので、常識的な考えに囚われず、独特な物の見方をすることが多い。そのため、下手をすると変人扱いされてしまい、孤立したり、疎外されることもあるのだが、ある程度現実的な能力を持ち合わせていたり、そうした面で、助けになってくれる人がいると、持ち味の独創性や精神性を生かして、活躍できる。
彼は共同体の中では、預言者的な存在であり、日常的なことには、ほとんど能力を発揮できないが、将来への新たな可能性を切り開いたり、見通しを映し出し、道を照らし出すという面での能力を持っていることが多い。技術革新に携わる仕事や研究者、アーティスト、企画の仕事、精神科医、宗教家、占い師、霊能者などとして活躍する人には、このタイプの人が少なくない。支えとなる環境に恵まれないと、孤立したり、引きこもり、次第に現実との接触を失っていくこともある。
このタイプの人は、服装やファッションにも、余り関心がなく、体を覆えていればいいというぐらいに考えている。精神的なこと、内面的なことが重要なので、外見などは、どうでもいいと思っているのである。乗っている車なども、たいてい見栄えのしないポンコツで、おまけに、余り洗車もしていないことが多い。そうした人目を飾ることに労力や時間をかけるということを、馬鹿げていると思っているのである。
ライフ・スタイルは基本的にマイペースで、周囲に合わせるということが苦手である。チームワークでする仕事には、基本的に向いておらず、自分のペースでできる仕事に向いている。独立自営の仕事、SOHOスタイルの仕事も合っている。

ユングのオカルト趣味

偉大な精神分析学者であるC・ユングも、パーソナリティ障害のレベルかどうかは問題があるにしろ、このタイプのパーソナリティ傾向が推定される一人である。ユングは、若い頃からオカルトや心霊現象に興味を持ち、彼の学位論文は憑依現象に関するものであった。従妹には、巫女的な才能を持つ女性がいて、彼は彼女をいわば実験台にして研究を行った。ユング自身、幻聴があった時期があり、彼の心理学において唱えた集合的無意識共時性の概念は、一個人の心理学を越えた超越的な色彩を帯びている。それは、総合失調症的な世界との共通項を持つ。
彼が学者として世界的な成功を収め、後世に巨大な影響を及ぼしたのは、彼があくまでも科学の土俵に留まり、普遍性を保ったからだと思う。しばしば、失調型パーソナリティ障害は、客観性を失った事故の主観的で、一人善がりな世界に埋没してしまう。そうなると、変人の戯言として片付けられることになる。
ユングは直観力の大変鋭い人で、初めて妻となる女性に出会ったとき、自分はこの女性と結ばれるだろうと確信したと自伝で述べている。こうした直感の鋭さは、スキゾタイパルと呼ばれる人々によく見られる傾向である。ユングが用いた重要な概念の一つに共時性というのがある。その概念によれば、何かがたまたま偶然に一緒に起こることには、特別な意味があるとされる。
だが、これは総合失調症や失調型パーソナリティ障害の人が、よく訴える関係念慮の症状と似ている。
例えば、自分がトイレのノブに手をかけた拍子に、隣の車のクラクションが鳴ったのは、何か特別な意味があるのだと考えるのである。
もちろん共時性の概念は単なる関係念慮と同じモノではないが、それを感じ取るメカニズムは、大いに共通しているように思える。ユングが非常に直観力に富むスキゾタイパルな人物だったからこそ、そういう着想も得らたのだと思う。
また、前述のように、ユング自身の危機の時代において幻聴を体験していたという。そうした